大塚家具は6月3日、過去最高となる営業赤字を計上する見通しを発表しました。

2016年12月期の営業損益は15億4900万円の赤字となる見通しです。5億円の黒字予想から一転、大幅赤字となる見通しに修正しました。最終損益は3億6800万円の黒字予想を修正し、16億6100億円の赤字になる見通しを示しました。

リーマンショックの影響で最終損益は08年に5億3000万円の赤字、09年に14億9000万円の赤字に陥りましたが、その後は持ち直して黒字で推移していました。しかし、16年の最終損益の予想は09年の赤字を上回る見通しです。

同社は業績見通しの修正理由に「変化した顧客対応オペレーションの熟練度が到達するべき程度に至らなかった」ことを挙げています。2月の全店舗リニューアルオープンに合わせて、店舗の受付の機能などを新たなオペレーション体制へと移行させましたが、オペレーションの熟練度が3、4月の需要期までに到達するべき程度に至らなかったとしています。

はたして、オペレーションの問題が一番の理由なのでしょうか。オペレーションの問題もあるとは思いますが、大きな要因は別にあると私は考えます。一番の理由は、「ブランドイメージの毀損」により顧客離れが加速し、売上高が減少したため、利益を確保できなかった、ということにつきるでしょう。

「ブランドイメージの毀損」は、14年7月に発生した現社長の大塚久美子氏の社長解任に端を発した、いわゆる「お家騒動」に原因があることは周知の通りです。久美子氏と父親の勝久氏との骨肉の争いは世間に醜聞を広げるかたちとなりました。実の親子が争うような企業の製品を買う気にはなれないという空気が消費者に広がりました。このことにより、大塚家具のブランドイメージは大きく毀損することとなりました。

お家騒動が大きな要因であることには間違いはありません。ただ、大塚家具のブランドイメージを毀損した要因はこれだけではないと考えます。私は「価格帯の変更の失敗」と「セールの乱発」にも大きな要因があると考えています。

■ 価格帯の変更の失敗

一時会長を解任された久美子氏は、15年の4月に社長に復帰しました。社長に復帰した久美子氏は、骨肉の争いで毀損したブランドイメージの回復と落ち込んでいる収益を改善させるために様々な施策を講じていきました。大きな柱は、高価格帯での販売から中価格帯での販売へと移行することでした。顧客が気軽に購買できる価格帯にシフトする戦略です。

ブランドイメージを強化する上で、価格帯を変更するということは非常にリスクのある行為となります。価格帯を変更することは難しいことではありません。価格帯を操作することで一時的な売り上げを確保することは簡単にできます。しかし、ブランドイメージという観点から考えると、価格帯を変更するということは慎重にやらなければなりません。

消費者は価格帯の変更に敏感です。たとえば、最初から8万円で販売するのと、同じ商品・サービスで、10万円だったのを8万円で販売するのとでは、消費者が抱く意味合いは全く異なるものになります。10万円から8万円に変更した場合、「お買い得になった」「価値が下がった」という意味合いが消費者に強く含まれるようになります。「お買い得になった」と好意的に思ってもらえればいいのですが、「価値が下がった」と好意的ではないように思われてしまうと、ブランドイメージは大きく毀損することになります。

価格帯のブランドイメージに対する影響は、価格帯を下げるケースと価格帯を上げるケースの二つがあります。価格帯を上げる場合は、「高級なイメージがある」という好意的に思ってもらえるケースと、「割高になった」という好意的ではないように思われるケースがあります。

価格帯を上げたことでブランドイメージを棄損した最近の実例を挙げます。ユニクロは14年に秋冬商品を平均5%値上げし、15年の秋冬商品も平均10%値上げしました。2度に渡る値上げに対し、消費者は「割高になった」という好意的ではない評価を下し、客数は大幅に落ち込むようになりました。柳井正会長兼社長が「プライスリーダーシップを取り戻す」と、値上げの撤回を表明せざるをえなくなった経緯があります。

大塚家具は高価格帯での販売から中価格帯での販売へ移行していきました。しかし、「お買い得になった」と好意的に評価した消費者よりも、「価値が下がった」と好意的ではない評価を下した消費者の方が多かったというのが実情のようです。

■ セールの乱発がイメージを悪化させた

「セールの乱発」も、ブランドイメージを毀損させることになったと考えます。15年4月中旬から最大50%オフとなる「大感謝フェア」を実施しました。7月上旬からは最大10万円で下取りをする「のりかえ特割キャンペーン」を実施しました。11月上旬からは最大50%オフとなる「全館全品売りつくし」を実施しました。

それまでは行われていなかったセールを乱発させました。安さに引かれて一時的に売り上げを確保することはできました。たとえば、「大感謝フェア」の影響が反映される15年5月の売上高は前年比70%増と好調でした。しかし、16年5月の売上高は46.2%減と大幅に落ち込みました。一見すると、46.2%の落ち込みよりも70%増の方が幅は大きいため、セールが好影響を与えているように見えるかもしれません。しかし、14年5月を100とした場合、15年5月は170となりますが、そこからの46.2%減となると91.46となり、14年5月を下回っていることになります。

以上のことから、セールの乱発は一時的な売り上げを確保することはできましたが、消費者には「価値が下がった」という印象が強く残り、ブランドイメージを大きく損ねる結果が残ったといえます。「セールがないなら買わない」と判断した消費者も少なくはないでしょう。固定的なファンをつくるという意味では失敗だったのではないでしょうか。短期的な売り上げだけを見るのであればセールは有効ですが、中長期的に見て有効的かどうかは疑問が残ります。特に今の大塚家具の立場ではなおさらです。16年12月期の業績見通しの修正がそのことを物語っているように思えてなりません。

■ 価格帯はブランドイメージに強い影響を及ぼす

価格帯とブランドイメージとの間には強い相関関係があります。価格帯の操作はブランドイメージを毀損させないように慎重に行う必要があります。大塚家具の場合、中価格帯の家具に市場性があるのであれば、価格帯を変更したりセールを乱発するのではなく、別ブランドで展開することで対応するべきだったと私は考えます。

消費者が商品・サービスから受けるイメージが同質的な場合は、「ブランド・プラス・グレード」というブランド採用戦略を用いるべきです。たとえば、BMWが7シリーズや5シリーズ、3シリーズといったようにグレードを分ける方法です。または、新たなブランドを立ち上げるべきでしょう。

大塚家具は1969年創業から始まり、「高級路線」を歩んできました。消費者のイメージは「大塚家具=高級」です。このことは簡単には覆せません。中価格帯への変更とセールの乱発はブランド価値を棄損させただけといえるでしょう。大塚家具はブランディングに失敗したといえそうです。

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