政府は、安倍首相が重要課題として掲げる働き方改革の実現に向けて、政策の立案などに当たる「働き方改革実現推進室」を設置しました。

安倍首相は「一億総活躍社会を目指す私たちにとって、働き方改革は最大のチャレンジだ。世の中から非正規という言葉を一掃し、長時間労働を自慢する社会を変え、かつてのモーレツ社員という考え方自体が否定される日本にしていきたい」と述べました。

店舗型ビジネスでは人手不足が深刻化しています。仕事がきつい、やりがいが感じられないといった理由で人材が定着しないといわれています。働き方改革は喫緊の課題といえるでしょう。

■ 二要因理論と公平理論で考える

働き方改革を考える上で「二要因理論」が解決の糸口になると私は考えます。ハーズバーグは「二要因理論」において、マグレガーの「高次の欲求を満たしていくY理論の人間観に基づいた動機づけが必要」という考え方を行うために、職務に関連した動機づけが必要であると提言しました。

二要因理論では、「不満をもたらす要因」=「衛生要因」とし、「給与」「人間関係」「労働条件」などを挙げています。「満足をもたらす要因」=「動機づけ要因」とし、「達成感」「承認」「仕事への責任」などを挙げています。時給を上げる、正社員化するといったことは、職務不満を防止することはできますが、従業員の積極的態度を引き出すことは難しいとしています。

また、アダム・スミスの「公平理論」では、「自分の仕事への取り組みと対価としての報酬」と、「他人の仕事への取り組みと対価としての報酬」を比較し、その内容に不公平を感じる場合、公平性を感じるような状態に近づく行動をとるように動機づけられるとしています。

公平理論によれば、給与と自分の仕事の成果のバランスをとるように従業員は行動するので、高い時給を提示すれば従業員はやる気をだして頑張るようになりますが、継続的に成果を出してもらうには高い時給を出し続けなければならず、経営的には現実的ではないでしょう。

二要因理論にしても公平理論にしても、時給を上げる、正社員化するといったことは抜本的な改善にはなりません。二要因理論では、時給を上げる、正社員化するといった衛生要因ではなく、動機づけ要因を積極的に改善していかなければならないとしています。

具体的には、「職務充実(ジョブエンリッチメント)」により、仕事に計画、準備、統制といった内容に加え、責任や権限の範囲を拡大し、仕事そのものを質的に充実させ仕事の幅を広げようとすることが大事であるとしています。

■ スターバックスの事例から働き方改革を考える

職務充実を実現するためのヒントとなる事例があります。書籍『スターバックスのライバルは、リッツ・カールトンである。本当のホスピタリティの話をしよう』(岩田松雄著,高野登著/角川書店)からの引用です。

「スターバックスで働いている人は辞めない人が多いんです。他にもいい職場はいっぱいあるだろうに、アルバイトでも5年10年働いていますから。最近で知っているのは、超一流大学を出た女性。モデルみたいな方で、公共機関で広報担当をしていたんです。その後、スターバックスにアルバイトで入って、店長になって、結婚して1回辞めたんですが、今またアルバイトからやっています。多分、他で働いたら年収1000万円くらいとれる人だと思うんです。だけど、「スターバックスで働くことが報酬です」と言うんですね」

この女性は年収1000万円の仕事ではなくスターバックスで働くことを選びました。二要因理論で考えれば、「給与」ではなく「達成感」や「承認」といったものが彼女の心を動かしたのでしょう。スターバックスの人材の定着率は高いと言われています。

昨今の店舗型ビジネスにおける人手不足問題を解決するヒントがここにあるのではないでしょうか。時給を上げる、正社員化するといったことは必要なことかもしれませんが、それ以上に、従業員への動機づけが大事なのです。

店舗型ビジネスにおける人手不足について考える際、日本の労働力人口の変遷について触れておく必要があります。日本の労働力人口はこの10年はほぼ横ばいで推移していますが、15歳から34歳までの若い世代の労働力人口は約2割も減少しています。若い世代の労働力人口の減少は少子高齢化が影響しています。

店舗型ビジネスは他の産業と比べてより若い世代の労働力人口を必要とするので、若い世代の労働力人口の減少の影響はきわめて大きく、減少している労働力の獲得競争に陥っています。

ところで、この労働力人口の推移の問題は企業の要員計画を立てる上で極めて重要な情報となります。なぜかというと、未来の経済指標を言い当てることは難しいのですが、労働力人口の推移は高い精度で言い当てることができるからです。

天変地異でも起きない限り、人口がどうなるかは高い確度で推計することができます。日本の労働力人口は今後ゆっくりと、そして急速に減少していきます。日本の人口は現在の1億3千万人弱から2060年には8,700万人弱にまで減少すると推計されています。

若い世代の労働力人口の減少は昔から分かりきった情報でした。若い世代の労働力人口の減少を見据えて要員計画を立ててきた企業とそうでない企業とで、ここにきて大きな違いがでてきたといえます。

■ 『資本論』から労働問題を紐解く

ここで労働力の意味合いを考えてみます。マルクスは『資本論』で、資本主義社会は資本家が労働者の生産物・労働力を搾取する社会であると定義しています。資本家を企業と置き換えると現在の資本主義社会では、いかに労働者から搾取するかで企業が存続・発展できるかが決まると捉えることができます。

マルクスによれば「可変資本」である労働こそが「剰余価値」を生み出すものであるとしているので、労働者が給料以上に働くことで企業は利益を確保できると考えることができます。労働にかかるコストを削れば削るほど利益がでる構造になっています。そのことが従業員に長時間労働やサービス残業を強いる原因となりました。

労働力人口が多い時代では労働者の代替がきくので、労働者は嫌でも長時間労働やサービス残業を受け入れざるを得ない状況がありました。しかし、労働力人口の減少がそうした状況を変えていきます。労働力人口の減少が労働者の地位を相対的に向上させているからです。

労働環境が嫌ならば無理して働かなくてもいいという状況になりつつあるため、いわゆる「ブラック企業」は敬遠されるようになりました。店舗型ビジネスにおいて人手不足が生じている理由の一つがここにあります。他の産業への若い世代の労働力人口の流出は今後も更に強まっていくでしょう。

そうなると、強い誘因がないと企業は人材を確保することができなくなります。ブラック企業を敬遠し、給料面での待遇はもちろん、職場環境が良くやりがいのある職場を求める傾向は強まっていきます。

マルクスが指摘しているように、企業が利益をだすために労働者から搾取することは非常に合理的であるため、一部の企業にとって強い誘因であることは今後も変わることはないでしょう。日本が資本主義社会であり続ける限り、ブラック企業は消えることはありません。

ブラック企業は従業員を搾取することにより高い利益を確保しようとします。長時間労働やサービス残業をさせることにより企業は利益を得ることができます。

従業員に長時間労働やサービス残業をさせることは簡単です。もちろん、企業は従業員に「長時間労働、サービス残業しろ」とは言いません。企業が従業員に影響を与える最大のものは「人事権」です。

企業が従業員に長時間労働やサービス残業をさせたい場合、この人事権を最大限に活かして、長時間労働やサービス残業をしている企業に忠実な人物を昇進・昇格させます。昇進・昇格させた人物が有能かどうかは関係ありません。むしろ、有能ではない方が企業にとっては都合がいいといえます。

長時間労働やサービス残業をしている人が昇進・昇格するのを見て、「長時間労働やサービス残業をすれば企業は昇進・昇格させてくれる」と思うようになります。昇進・昇格者が有能ではないほど、「有能ではなくとも、長時間労働やサービス残業をすれば昇進・昇格できる」と思わせることができます。

マルクスの『資本論』を解釈すると、付加価値の出しづらい産業では従業員が優秀で仕事ができることによる利益創出効果よりも、労働力コストの削減(長時間労働やサービス残業により少ない費用で労働力を確保できる)による利益創出効果の方が高くなります。

ブラック企業はこのように人事権を利用して、長時間労働やサービス残業をする従業員を増やしていきます。長時間労働やサービス残業をすることが評価の対象となるので、他の企業で通用するスキルは身につきません。当該ブラック企業でしか通用しないスキル、マインドのみを身につけることができます。

この他にも、同調圧力を用いて有無を言わせない雰囲気をつくることで長時間労働やサービス残業を強いていくなど、方法はいくらでもあります。

ブラック企業で働いている人を見て「そんな会社は辞めてしまえばいいのに」と思う人もいるかもしれません。しかし、ブラック企業に一度どっぷり浸かってしまうと、他の企業に転職できるスキルが身についていないため、当該ブラック企業から抜け出すことができなくなってしまっているのです。

このように、従業員から搾取することは難しいことではありません。それでいて利益が出るため、ブラック企業は無くなることはないでしょう。

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