新聞や経済誌などに目を通すと、よく「企業価値」や「事業価値」といった言葉が飛び交っています。

企業の価値を計る方法は多岐にわたります。純資産をもって計る「純資産法」、自社と類似の企業の任意の指標の数値に係数を乗じて価値を算出する「類似企業比較法」、将来生み出すと予想されるキャッシュ・フローを現在価値の合計をもとに価値を算出する「DCF法」など、複数存在します。

■ DCF法とは

いくつかある中で、今回は「DCF法(Discounted Cash Flow Method)」をご紹介します。DCF法とは、企業が将来生み出すと予想されるキャッシュ・フローの現在価値の合計をもとに価値を算出する方法のことです。

キャッシュ・フローとは、一定期間における収入から支出を差し引いて残った資金の流れのことをいいます。キャッシュ・フローは「利益」と似ていますが、この二つは似て非なるものです。利益は帳簿上の「儲け」であるのに対し、キャッシュ・フローは実際に企業に入ってきた「資金」になります。

例えば、発生主義会計における売掛金の場合、帳簿上は発生時に売上として計上されますが、実際の資金として回収するには一定の期間が必要になります。そうなると、売上としては計上されていても、実際の資金は手元に入ってこないことになります。

そのため、売上は上がっていても実際の資金が入ってこないことにより資金がショートしてしまう「黒字倒産」が発生することがあります。売上は計上されているのに、実際のお金がないことにより、金融機関等に支払いができなくなるといったことが発生するのです。

黒字倒産を発生させないためには、実際の資金の流れであるキャッシュ・フローを管理する必要があります。このことからも、キャッシュ・フローが重要な概念であることがわかります。

■ 現在価値とは

次に「現在価値」についてご説明します。現在価値とは、将来に発生する価値を、割引率を用いて現時点での価値に直したものをいいます。

例えば、今日時点の100万円の価値と来年の今日の時点の100万円の価値は異なります。仮に金利が年10%とした場合、100万円を1年間運用すれば110万円になります。逆に言えば、1年後の110万円は今日の価値にすると100万円でしかないことになります。

将来の価値を現在での価値に直すことを「割り引く」といいます。将来発生する金額を「1+金利等の利率」で除することで現在価値に割り引きます。

110万円を10%で割り引く場合は、「110万円÷1.1=100万円」となります。ここでの10%という金利の利率のことを「割引率」といいます。この割引率を用いて、将来発生する価値を現時点での価値に直していきます。

例えば、1年後に110万円のキャッシュ・フローが生まれる場合、仮に10%で割り引くとすると、現在の価値は「110万円÷1.1=100万円」となります。

2年後に110万円のキャッシュ・フローが生まれる場合は、仮に10%で割り引くとすると、現在の価値は「110万円÷1.1÷1.1=90.9090…万円」となります。

3年後に110万円のキャッシュ・フローが生まれる場合は、仮に10%で割り引くとすると、現在の価値は「110万円÷1.1÷1.1÷1.1=82.6446…」となります。

■ 事業価値の算出方法

DCF法により事業価値を算出します。事業価値は以下の式で求めることができます。

事業価値=将来のFCF(フリーキャッシュ・フロー)÷割引率

この事業価値に非営業資産(投融資)を加えて企業価値を算出します。「FCF(フリーキャッシュ・フロー)」とは、自由に処分できる余剰資金のことをいいます。算出方法は諸説あります。ここでは以下の式でFCFを求めます。

FCF=税引後営業利益+減価償却費-運転資本増加-設備投資額

「運転資本増加」とは、通常の営業活動を遂行するために必要な資本の増加額のことです。売上債権、棚卸資産、買入債務を加減したものです。「設備投資額」とは、事業に用いる設備に対して行った投資額のことです。有形固定資産などの増加額です。

事業価値を算出する場合、将来生み出すFCFを算出する必要があります。将来生み出すFCFは事業計画により算出します。過去3~5年分の貸借対照表と損益計算書、キャッシュ・フロー計算書などを用いて将来生み出すFCFを求めます。

将来生み出すと予想されるFCFは、3~5年先のあるべき数値を算出し、それ以降は継続価値として算出します。「継続価値」とは、収益予想が立てられる一定年数を超える年度のキャッシュ・フロー価値のことです。継続価値の算出式は以下の通りです。

継続価値=最終年度のFCF×(1+成長率)÷(割引率-成長率)

DCF法での「成長率」とは、遠い先の将来のFCFを予測するのは困難なため、あるべき数値を算出できる最終年度のFCFに一定の割合で成長することを仮定して設定する値のことです。

例えば、「3年後のFCFは110万円と予想できるが、それ以降は経営が不確実なので予測が困難だ。そこで、4年以降は1年ごとに110万円が1%ずつ成長すると仮定して、成長率を1%と設定して継続価値を算出しよう」といったように成長率を用います。

割引率は、事業の投下資本における、負債と自己資本の割合により加重平均した資本コストを用います。資本コストには一般的には「WACC:Weighted Average Cost of Capital(加重平均資本コスト)」を用います。WACCの算出式は以下の通りです。

WACC=D/(D+E)×rD×(1-税率)+E/(D+E)×rE
D:有利子負債総額 E:時価総額(または株主資本) rD:負債コスト rE:株主資本コスト

「負債コスト」とは、債権者より調達した負債に対するコストのことです。借入金にかかる費用である支払利息や、債券の発行による費用である発行費用及び支払利息などが該当します。

「株主資本コスト」とは、株主より出資を受けて調達した資本に対するコストのことです。株主資本コストにはCAPM(Capital Asset Pricing Model)がよく用いられますが、ここでは詳細を割愛します。

事業価値の算出式は「事業価値=将来のFCF÷割引率」でした。割引率にWACCを当てはめます。この事業価値に非営業資産(投融資)を加えて企業価値を算出します。非営業資産とは、事業の用に供していない資産で、売却処分しても事業価値に影響を与えない資産のことです。預金や社債、投資有価証券などの金融資産や遊休の土地・施設などが該当します。

■ 仮定の企業で事業価値を算出する

それでは、仮定の企業においてDCF法を使った事業価値の算出を行ってみます。

まずは割引率となるWACCを算出します。株主資本:有利子負債の時価比率が6:4とします。株主の期待収益率は15%、有利子負債の平均借入金額は4%とします。法人税等の実効税率は40%とします。WACCの算出方法は以下の通りでした。

WACC=D/(D+E)×rD×(1-税率)+E/(D+E)×rE
D:有利子負債総額 E:時価総額(または株主資本) rD:負債コスト rE:株主資本コスト

式に数値を当てはめていきます。

WACC={6×15%+4×4%×(1-0.4)}÷(6+4)=9.96%≒10.0%

以上より、割引率は「10%」とします。次に将来のFCFを算出します。事業計画は以下の通りとします。

(単位:百万円)
【1年目】
営業利益:110
減価償却費:50
運転資本増加:20
設備投資額:30

【2年目】
営業利益:130
減価償却費:40
運転資本増加:10
設備投資額:40

【3年目】
営業利益:140
減価償却費:30
運転資本増加:30
設備投資額:10

【4年目以降】
3年目のFCFが毎年2%ずつ永続的に成長するものとする

FCFの算出方法は以下の通りでした。

FCF=税引後営業利益+減価償却費-運転資本増加-設備投資額

式に数値を当てはめていきます。そうすると、1年目のFCFは110、2年目は120、3年目は130となります。各年のFCFを現在価値に直すため、割引率の10%で割り引きます。

1年目の現在価値は「110÷0.1=100」となります。

2年目の現在価値は「120÷0.1÷0.1=100」となります。

3年目の現在価値は「130÷0.1÷0.1÷0.1=100」となります。

1~3年目の現在価値の合計は300となります。最後に4年目以降のFCFを算出します。継続価値の算出方法は以下の通りでした。

継続価値=最終年度のFCF×(1+成長率)÷(割引率-成長率)

式に数値を当てはめます。

130×(1+0.02)÷(0.1-0.02)=1,657.5

継続価値を現在価値に直すため、割引率の10%で割り引きます。継続価値の現在価値は「1,657.5÷1.1÷1.1÷1.1≒1,245.3」となります。1~3年目のFCFの現在価値と継続価値の現在価値を合わせると、1,545.3(百万円)となります。1,545.3(百万円)がこの企業の事業価値となります。この事業価値に非営業資産(投融資)を加えたものが企業価値となります。

DCF法による企業評価では、事業計画の精度に大きく左右されるという特徴があるため、先行きが不透明な経営環境下においては正確な事業価値を算出することが困難という欠点があります。ただ、DCF法は実態を映し出しやすいキャッシュ・フローを使用している点が大きな特長であり、よく使われる手法になります。会社の価値を算出する手段として活用してみてください。

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