トヨタ自動車の経営戦略を見ていきます。

まずは市場環境です。自動車業界の市場規模は巨大です。しかし、縮小傾向にあります。2008年のリーマンショックに端を発した世界的な経済危機の影響により、自動車販売台数は大きく落ち込むようになりました。

さらに、「所得の伸び悩み」「自動車に対する価値観の変化」といった理由により、人々の自動車離れが指摘されています。

「所得の伸び悩み」は、デフレ不況やリーマンショックといった経済の停滞が影響しています。所得の減少や雇用の不安定化などにより人々の購買力の低下が指摘されています。

「自動車に対する価値観の変化」は自動車業界が直面している喫緊の課題です。以前は自動車を持っていることがステータスであり、ドライブや旅行、レジャーなどでの使用価値が高くありました。しかし近年は、自転車や鉄道といった代替移動手段が充実し、自動車以外の物への関心が高まり、自動車を所有する必要性が顕著に低下しています。

こうした厳しい状況に置かれている自動車業界のリーディングカンパニーとして、トヨタ自動車はどのような経営戦略を行ってきたのでしょうか。

■ マーケティング会社を設立

作れば売れる時代では製造部門が大きな力を握っていました。しかし時代が進むにつれ、ただ作るだけでは売れなくなりました。そこで、顧客が求めるものを究明するためのマーケティング部門の重要性が増していきました。

しかし、マーケティングの重要性を認識しつつも、どちらかといえば具体性に乏しく抽象論を扱うマーケティングへの抵抗感も一部に根強く存在していました。言葉ではマーケティングは大事だと言いつつも、実態は自社の都合を押し付けることを捨て去ることのできない、真の顧客志向のマーケティングとはほど遠い状態でした。

トヨタ自動車はそうした現状を打破し、時代のニーズに合った経営戦略を推し進めるべく、マーケティングを独立した部隊として位置づけることにしました。トヨタ自動車とは別会社の「トヨタモーターセールス&マーケティング」と「トヨタマーケティングジャパン」を設立したのです。両社は2010年1月より事業を開始しました。

トヨタモーターセールス&マーケティングはグローバルなマーケティング展開とマーケティング関連子会社の統括・支援を行う会社です。トヨタマーケティングジャパンはトヨタ国内の広告宣伝機能として、マーケティング及びプロモーション活動を行う会社です。

別会社設立前は、マーケティング機能はトヨタ自動車の国内営業本部の一部署が行っていました。マーケティング活動が短期的な販売促進の域を超えることができていませんでした。そこで別会社を設立することにより、より専門性と機動性を高める体制にしたのです。

本社の一部署であれば、他の部署からの干渉などで、策定したマーケティングプランが潰されたり骨抜きにされたりすることもあります。そこで別会社にマーケティング機能を移管することで、他からの干渉を排除した上でマーケティングプランを実行できるようにしました。

■ 東日本大震災がトヨタの意識を変えた

このように、トヨタ自動車はマーケティング機能を強化する体制を構築し、リーマンショックから続く低迷からの脱却に向けて動き出していきました。しかし、2011年3月、私たち日本人が決して忘れることができない出来事が発生してしまいました。東日本大震災です。

東日本大震災により未曾有の大災害が発生し、東北地方を中心に甚大な被害が発生しました。トヨタ自動車に関しては、震災の影響によりサプライチェーンが寸断されてしまいました。一部の生産施設の活動停止により生産が停滞し、消費者の消費マインドは落ち込み、自動車の販売は低迷しました。

震災により甚大な被害が発生しましたが、徐々に復興への気運が高まっていきました。そうした機運の高まりはトヨタ自動車でも表れました。「今だからこそ、トヨタも生まれ変わらなければならないのではないか」と社員は考えるようになったのです。

そうした状況で生まれたのが、「日本人の気持ちをもう一度ドライブさせたい」「もう一度、新しいクルマの楽しさを創造したい」というコンセプトの「FUN TO DRIVE, AGAIN.」キャンペーンです。キャッチフレーズとして「ReBORN」が誕生しました。

かつて混沌としていた戦国時代をまとめあげようとした織田信長と豊臣秀吉が復活(ReBORN)し東北地方をドライブするというシリーズと、国民的人気アニメの「ドラえもん」の20年後を描いた実写版シリーズのCMキャンペーンを打ち出しました。自動車の再生と日本の復興を願ってCM展開を行ったのです。

ReBORNシリーズのCMは物語のようになっています。収益や販売台数の向上を実現するためのCMというよりも、「トヨタ自動車は社会にとってかけがえのない会社になりたい」という想いを伝えるメッセージ性の強いCMでした。「自動車を買ってください」ではなく、「復興に向けてみんなで頑張っていこう」というメッセージを訴えたのです。

■ イメージの大転換を行う

メッセージ性が強いCMにしたのには理由があります。商品の特性上、自動車の販売は消費者のブランドに対する好意度の影響を強く受けます。提供する企業がどのようなブランド価値を擁しているのかにより販売動向が大きく変わります。企業のブランド価値が、消費者が商品を購買するかを決定する際の重要な判断材料となるからです。

特に東日本大震災の影響で、消費者は企業姿勢を重視する傾向を強めていきました。そうした流れに対応したマーケティングを打ち出す必要がありました。こうした背景から「ReBORN」キャンペーンが誕生し、トヨタ自動車は復活の狼煙を上げることになったのです。

ところで、以前のトヨタ自動車のイメージといえば、どちらかというと、「真面目でお固い」という印象がありました。トヨタ自動車の自動車は面白みの無いものばかりだと捉えていた人も少なくありませんでした。こうした固定化されたイメージを払拭する必要性も生じていました。

そこでトヨタ自動車はイメージの転換を図っていきました。2011年10月からスタートした「ReBORN」キャンペーンでは、信長と秀吉が東北地方をドライブするCMや、20年後のドラえもんを題材としたCMなど、それまでにはなかった斬新で面白みのあるコンテンツを採用しました。以前のトヨタ自動車のCMでは見られなかったテイストになっています。

商品である自動車に関しては、2013年10月に販売された「シャア専用オーリス」や、艶やかなピンク色の「ピンククラウン」など、それまでには無かった斬新な自動車を開発しました。

両車種は実売を狙うのではなく、「トヨタ自動車は斬新な考えを持ち合わせている」ということを消費者にアピールすることを狙いました。「悪趣味」といった酷評もありましたが、女性や若者、一部のマニアからの反響は大きく、狙った通りの展開になったと同社首脳部は判断しています。

オーリスのCMでは「常識に尻を向けろ!」という赤いビキニ姿の男性が登場するなどで話題になりました。オンエア1週間でYouTubeでの再生回数が500万回を超える大きな反響がありました。

こうしたかつてない斬新な広告宣伝活動ができたのは、トヨタ自動車本体からマーケティング部門を分離して新会社を設立したからこそだといえます。本社の一部署で行っていたら、ここまで大胆に展開することはできなかったでしょう。

【無料メールマガジン】メルマガ「売上倍増戦略講座」が無料です。

下記フォームからお申し込みください

 

空メールでも登録できます