グーグルの人工知能(AI)・アルファ碁が世界最強の囲碁棋士・柯潔九段を破り衝撃が走りました。「深層学習」と呼ぶ技術を進化させた新技術が勝利に貢献したといいます。

その新技術「敵対的生成ネットワーク(GAN)」が脚光を浴びています。GANは2つのAIが競い合い相互学習することで能力を高め、高めた能力で本物に近いものを作り出す技術です。

2つのAIはそれぞれ役割が異なります。それぞれを「A」と「B」に区分けした場合、Aはレプリカを作り出す役割、Bはそのレプリカを本物かどうか識別する役割を担います。

Aはレプリカを提示します。それを見てBは「本物とは全然違う」と判断したとします。それを受けてAはより精巧なレプリカを作り出します。Bは「似ているけど違う」と判断したとします。Aはより精巧なレプリカを提示します。Bは「似ているけど何か違う」と判断したとします。Aはさらに精巧なレプリカを作り出します。Bは「本物と区別がつかない。本物だ」と判断します。こうして本物に近いものを作り出します。

GANは騙し合いを通じて相互学習し能力を高めていきます。さて、GANについての詳しい解説は他に譲るとします。本稿ではこのことから学べることは何かを考えていきます。私は学べることが2つあると考えています。

1つは「真似る」ことの重要性です。GANでは「A」が本物をとにかく真似ていきます。「B」にダメ出しされてもめげずにレプリカを作り続けます。最初は似つかわなかったものも、学習を通じて本物に近づいていきます。

アルファ碁はGANで真似し続けて成長し、結局は本物の最強棋士を超えました。ある意味、偽物から始まったものが本物を超えたと言うことができます。

経営学者のドラッカーは自著『イノベーションと企業家精神』で、企業家がとるべき戦略の一つとして「創造的模倣戦略」を挙げています。ドラッカーは同書で「この戦略は模倣である。企業家はすでに誰かが行ったことを行う。だが最初にイノベーションを行った者よりもそのイノベーションの意味をより深く理解するがゆえに、より創造的となる」と述べています。

創造的模倣戦略は、他社の成功を真似して利用することで成長する戦略です。IBMやP&G、セイコーがこの戦略を採用し成功したと述べています。このことからもわかる通り、真似ることは理にかなっているといえます。「真似る」は創造的なのです。

GANからはもう1つのことが学べます。それは「騙す人」は有効活用できることが理解できるということです。

あなたの周りであなたのことを騙そうとする人はいないでしょうか。あなたを陥れ、利用し、騙そうとする人です。普通に考えるとそうした人は迷惑な存在としか思えません。ただ、GANの成功を知るとそうした人が貴重に思えてきます。なぜなら、そうした人が自身の成長を助けてくれることになるからです。GANは騙す存在がいてはじめて成長できる仕組みになっています。騙そうとする人を上回ろうと考え努力することで成長できます。

そうなると、騙そうとする人は貴重な存在です。「成長の機会を与えてくれてありがとう」と感謝するべきかもしれません。

ちなみに、ドラッカーは自著『創造する経営者』で米自動車大手のGMで長年社長を務めたアルフレッド・スローンを引き合いに「スローンは、挑戦のない成功のもろさを知り、五つの車種すべてについて自ら強力なライバルをつくった」と述べ、ライバルの存在の重要性を指摘しています。

ライバルがいてこそ成長できるとスローンは考えました。騙そうとする人も同じようなものです。騙そうとする人がいるからこそ成長できるのです。騙そうとする人は歓迎するべきといえるでしょう。

GANを備えたAIは最強棋士を超えました。それにしても、GANまたはAIは本物の人間を作り出すことはできるのでしょうか。そのことを考えたとき、私は心理学者のユングの著書『心理学と錬金術』のことを思い出しました。

『心理学と錬金術』では、中世の錬金術師が物質同士の結合により金を作り出そうとし、その過程の中で心の中の異なる要素の結合を重ねあせて意味づけを行なっていた錬金術師とその心理を考察しています。

錬金術師は錬金術においては異なる物資を結合することで金を作り出そうとし、心理においては異なる要素を結合することで真理を作り出そうとしました。つまり、錬金術と心理において「本物」を作り出そうとしていたのです。

GANの過程ではレプリカを作り続けます。レプリカの改良過程では要素の結合を必要とします。本物に足りないものを結合していきます。そして本物に近いものを作り出そうとする作業を続けていきます。また、AとBが対立するなかで本物が生まれると言う意味では、『心理学と錬金術』でユングが指摘する「対立しあうものの結合」ともいえるでしょう。

中世の錬金術では本物の金を作り出すことはできませんでした。しかし、その過程で様々な発明がなされ、以降の人々はその恩恵を受けて生きています。もちろん私たちもです。錬金術師は錬金術の過程で心理の発展を試みました。それが心理学や哲学に発展し、その思想は現在も引き継がれています。

GANやAIで本物の人間を作り出すことはできないでしょう。アルファ碁が最強棋士に勝ったのも、特定のルール下での話です。錬金術でいえば、派生的な発明や心理の発展の過程といったところでしょうか。しかし、それが人類の役に立つことであることは間違いありません。今後の発展が期待されます。

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