労働者の賃金はなぜ上がらないのでしょうか。賃金を考える上で近年、労働分配率の動きに注目が集まっています。そして日本の労働分配率が近年、低下基調であることが話題となっています。

2017年9月4日付日本経済新聞は「企業の利益のうち労働者の取り分を示す労働分配率が下げ止まらない。財務省の4~6月の法人企業統計調査によると、資本金10億円以上の大企業の分配率は43.5%だった。高度経済成長期だった1971年1~3月以来、約46年ぶりの低水準を記録した。人件費は増えているものの、四半期ベースで最高益を記録した収益環境と比べると賃上げの勢いは鈍い」と報じ、労働分配率が低下基調であることを示しています。

労働分配率とは、付加価値に対する賃金などの割合のことです。定義や計算式は複数あります。国内総生産(GDP)のうち労働へ分配される割合で算出した労働分配率を見ても、近年低下基調であることがわかります。

内閣府経済社会総合研究所による2015年度「国民経済計算年次推計」によると、08年度の労働分配率は72.2%でしたが、15年度は67.8%で低下基調であることがわかります。

一方、賃金の原資となる企業の内部留保は増加基調にあります。財務省が発表した2016年度の法人企業統計によると、金融・保険業を除く全産業の内部留保(利益剰余金)は前年度比7.5%増の406兆円で過去最高となりました。

内部留保が増加基調にあるのに労働分配率が低下基調であるということは、儲けた利益が労働者に対して十分に還元されていないことを意味します。賃金を上げる原資があるのに賃金が十分に上がっていないのです。これはなぜなのでしょうか。このことについて喧々諤々の議論が交わされています。

私の見解を示します。労働分配率が上がらない一番の理由は「GDPが恒常的に増えていないから」です。GDP、すなわち国の富が増えず、限られたパイの奪い合いをしなければならない状況にあるから労働分配率が上がらないと私は考えます。

これは、経済学者のアダム・スミスの考えと同一です。アダム・スミスは『国富論』(中央公論新社/著者:アダム・スミス/監訳者:大河内一男)で次のように述べています。

「労働の賃銀の上昇をもたらすのは、国民の富の現実の大きさ如何ではなくて、富の恒常的な増加である。だから労働の賃銀は、最も裕福な国々においてではなく、最も繁栄しつつある国々、いいかえると、最も急速に富裕となりつつある国々において最高となる」

アダム・スミスは労働の賃金の上昇をもたらすのは「富の恒常的な増加」だと述べています。日本は裕福で富が大きい国といえますが、このことは賃金の増加要因ではないといいます。また、現在の中国にあたる「シナ」を例に挙げて次のような見解を示しています。

「シナは、長いあいだ世界で最も富んだ、すなわち最も肥沃で、最もよく耕作され、最も勤勉で、そして最も人口の多い国の一つであった。けれども、この国は長いあいだ停滞状態にあったようだ」

「現在どれほど富んでいても、シナのように停滞的状態にある国では、賃銀は高くなる見込みはない」

これは今の日本にそっくりではないでしょうか。今の日本は豊かです。しかし停滞的状態にあります。この見解でいえば、日本では賃金は上がらないことになります。賃金が上がらずに利益が増えれば、利益を分母として算出する労働分配率は下がってしまいます。

日本の富、すなわちGDPは停滞的状態にあります。2015年度「国民経済計算年次推計」によると、日本の名目GDPは94年度〜15年度まで500兆円程度で横ばい状態が続いています。実質GDPは08年度ごろから15年度まで500兆円程度で横ばいです。

15年度のGDPは前年度から急上昇していますが、これは研究開発費を新たに加えるなどの新しい基準でGDPを計算し直した影響が大きいという面があります。15年度の名目GDPは従来基準と比べて約30兆円膨らんでいます。

全体のパイ、すなわちGDPが恒常的に伸びなければ賃金は上がりません。つまり、労働分配率は上がりづらいのです。

パイが大きくなっているのであれば、企業は稼いだ利益を従業員に還元して士気を高め、広がっているパイを獲得する動きにでるでしょう。

しかし、全体のパイが一定なのであれば、企業は競合とのパイの奪い合いをせざるをえません。となると、激しい消耗戦を戦わなくてはならなくなります。持久戦を勝ち抜くためには兵糧、つまり資金が必要です。そのため、稼いだ利益を従業員に還元しづらいのです。

こうした状況のため、労働分配率が上がらない一番の理由は「GDPが恒常的に増えていないから」だと私は考えます。労働分配率を上げるためには、日本の人口を増やす施策を講じて内需を拡大する(日本のパイを大きくする)ことと、企業の国際競争力を高めることで海外市場を開拓する(海外のパイを奪う)ことが必要でしょう。

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