女子大生のハンバーガー店経営物語

第一章 父のハンバーガー店開業に対する想い

第一節

 茂之は社命でアメリカ・シアトルに駐在していた。シアトルにはいたるところにハンバーガー店がある。そのため、毎日のようにハンバーガーを食べていた。
 茂之は商社マンとして活躍していた。収入は悪くない。むしろ、同年代のサラリーマンと比べれば高い収入を得ていた。大きな不満はなかった。ただ、どこかで引っかかるものがあった。

「店を開きたい」

 一国一城の主になりたいという願望を茂之は抱いていた。といっても、それは少年の頃の漠然とした夢だった。是が非でもなりたいというほどの夢ではなかった。ただ、夢として抱いたことは事実である。
 結局、茂之はサラリーマンの道を歩んだ。多くの人が歩む道を茂之も選んだ。24歳の時に2歳年下の冬美と結婚。その後、すみれが生まれた。
 茂之は海外への出張も多く、転勤も多い。すみれと冬美だけで過ごすことも少なくなかった。これは何も珍しいことではないのだが、水谷一家では問題があった。冬美は体が弱いのだ。
 冬美はもともと体が弱い上、度重なる転勤でストレスが溜まり、茂之と結婚してからは体調を崩すことが多くなった。
 茂之が出張で家を留守にし、すみれが学校に行くと、冬美は一人で過ごさなければならない。体調が悪化した場合には誰も冬美を看ることはできない。茂之はそのことを案じていた。

 5年前の冬。雪が深深と降る中、冬美は体調を崩し病院に運ばれた。夕飯の準備をしているときに倒れた。たまたまその時はすみれが側にいたので、救急車を呼び直ぐに桜上水にある病院に運ばれた。茂之が単身赴任でシアトルに駐在している時のことだった。茂之は国際電話で冬美の体調を案じた。すみれは茂之を安心させようと、穏やかな口調でこう言った。
「お父さん、大丈夫。私がお母さんを看ているから」
 冬美はこう応えた。
「大丈夫だから」
 すみれが看てくれるから心配ない。冬美も大丈夫だと言っている。高熱が出ているが、医者はただの風邪だと言っている。
 しかし、茂之の不安は消えなかった。このようなときに家族の側にいてあげることができない状況に茂之は苛立ちを覚えた。

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