女子大生のハンバーガー店経営物語

第一章 父のハンバーガー店開業に対する想い

第二節

 実は、茂之は誰にも明かしていない秘密があった。妻の冬美にも娘のすみれにも言っていなかった秘密だ。当然、会社の人間も知らない秘密。
 茂之だけが語ることができる「物語」があった。

「秘密=物語」

 茂之は物語を育てていた。少年時代に抱いていた夢。一国一城の主になる夢。いつしか消えてしまっていた夢。サラリーマンになりたての頃には消えてしまっていた夢。
 商社マンとして出世することも悪くはない。家族を養うこともできている。希望していた海外事業を担当させてくれている。会社が自分を信用してくれているのが痛いほどわかる。出世レースでは同期の中ではトップを走っている。順風満帆だ。

 でも、何かが違う。

 茂之はアメリカへの出張時やシアトル駐在時、手軽に食事をとることができるため、ハンバーガーをよく食べていた。アメリカには多様なハンバーガー店がある。誰もが知っているハンバーガーチェーン店もあれば、個人経営の小さなハンバーガー店もあり、百花繚乱の様相を呈している。
 茂之はいつしか、ハンバーガー店巡りをするようになった。理由はよくわからない。ただ、ハンバーガーを食べ歩いた。
 有名なミュージシャンが経営しているハンバーガー店にも行った。ハンバーガー好きが高じて、そのミュージシャンはハンバーガー店を開店したのだ。
 テキサス州を訪れた時に食べたハンバーガーは直径が12センチ以上もある巨大なものだった。
 15種類以上のトッピングを無料でカスタマイズできるハンバーガーもあった。自分好みのオリジナルバーガーを楽しめるのが特徴の店だ。

 日本にももちろんハンバーガー店はあるが、アメリカほどの多様性はない。最大手のマイスバーガーを筆頭に、チェーン店数社が幅を利かせている状況だ。

「ハンバーガー店を日本で開きたい」

 茂之はいつしかそう思うようになった。物語が動き始めた。いつかはハンバーガー店を開こう。でも、果たして成功するのだろうか。不安がつきまとう。
 茂之は多種多様のハンバーガーを知っている。本場アメリカのハンバーガーを食べ歩いた。学生時代にマイスバーガーでアルバイトをしたこともある。でも、それと経営は別物だ。

 日本ではマイスバーガーの勢いが増していた。「ハンバーガー店といえば?」という問いがあるとしたら、多くの人が「マイスバーガー」と答えるだろう。
 マイスバーガーはアメリカに本社を置くハンバーガーチェーン店だ。世界で3万店以上展開し、日本では3千店以上出店している。
 マイスバーガーは低価格でハンバーガーを販売している。ファミリーを中心に幅広い層をターゲットとしている。
 マイスバーガーを筆頭に大手のチェーンが幅を利かせている日本で、個人経営のハンバーガー店で生き残ることができるのだろうか。茂之は不安に思った。

「不安だ。でも勝負してみたい」

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