女子大生のハンバーガー店経営物語

第二章 父の決断

第一節

 茂之は本を読むことが好きだった。シアトル駐在時の会社が休みの日は、ハンバーガーの食べ歩きか読書に耽るかのどちらかをして過ごしていた。本を日本からいくつか持っていった。
 ふと、茂之は本棚から一冊の本を取り出した。『競争の戦略』だ。著者はマイケル・E・ポーターで、編訳者は土岐坤、中辻萬治、服部照夫、出版社はダイヤモンド社となっていた。
 『競争の戦略』には次のように書かれていた。

 他社に打ち勝つための三つの基本戦略がある。
 1 コストのリーダーシップ
 2 差別化
 3 集中(五六頁)

 ハンバーガー店を開店するとして、マイスバーガーなどの大手チェーン店に打ち勝つためにはどうすればいいのか。
 大手チェーン店は「コストのリーダーシップ」の戦略をとっているではないかと茂之は思った。『競争の戦略』では「コストのリーダーシップ」について次のように書かれていた。

 効率のよい規模の生産設備を積極的に建設し、エクスペリエンスをふやすことによるコスト削減をがむしゃらに追求し、コストおよび間接諸経費の管理をきびしく行ない、零細顧客との取引を避け、R&Dやサービス、セールスマン、広告のような面でのコストを最小に切りつめることが必要である。(五六〜五七頁)

 茂之が開店しようと考えている店の規模は小さいものだ。手持ちの資金は限られていて、大規模な生産設備を持つことはできない。
 茂之は本の先を読み進めた。そして「差別化」の戦略についての記述が目に入った。

 自社の製品やサービスを差別化して、業界の中でも特異だと見られる何かを創造しようとする戦略である。(五九頁)

「この差別化の戦略であれば小さな店でもできる。日本には差別化されたハンバーガー店は少ない。勝負できる」と茂之は思った。
 妻の冬美が体調を崩して入院した。娘のすみれにはいつも寂しい思いをさせている。今の仕事を続けていては家族を幸せにできないと思うようになった。そして、ハンバーガー店を開きたいという想いも交錯した。

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