女子大生のハンバーガー店経営物語

第三章 ハンバーガー店を開業

第二節

 今回の入院は長引きそうだった。というのも、手術が必要だからだ。退院してもしばらくは自宅で療養が必要との診断があった。
 冬美が不在では店は回らない。代わりの人材を雇う必要が生じてしまった。ただ、雇えたとしても教育には時間がかかり、人件費もバカにならない。今はその余裕はないに等しい。
 茂之は窮した。「すみれが手伝ってくれないだろうか」と頭によぎった。すみれは週に2日の数時間、店で働いている。それを、フルタイムで働いてはくれないだろうかと考えたのだ。
 しかしすみれは就職が決まり、残りの大学生活を楽しむ時期だった。友人との卒業旅行やサークル活動もある。時間があるとはいえ、大学生でしかできないことをする時期であった。気軽に頼むことはできない。
「冬美がいなくて店は回るのだろうか」と不安が募った。もちろん、茂之はそのような感情はおくびにも出さなかった。

 茂之が内心困っているのをすみれは察した。茂之は不安を態度に表さなかったが、すみれの鋭い勘が茂之の不安を見抜いた。
「お父さん、わたし、お店を手伝うよ」とすみれは茂之にそっと言った。
「大丈夫、単位は全てとってあるから」と続けた。
 茂之は娘に感じている不安を見抜かれていたことに驚いた。家族には隠せないと悟った。
「そうは言っても、卒業旅行とかあるだろう」と茂之はすみれに配慮を示して言った。
「卒業旅行よりもお店の方が何倍も大事だよ。お母さんがお店に立てないんだったら、お店が回らないでしょ。私が代わりに出るから。それにお店の経営にも興味があるし」とすみれはきっぱりと言った。

 すみれには迷いがなかったわけではなかった。友達とヨーロッパを周遊する計画を立てていた。仲が良かった4人組でロンドンやパリ、ミラノといった観光地を巡る予定だった。
 掛け持ちでバーでもアルバイトをしていた。店をフルで手伝うとなると、バーのアルバイトを続けることが難しくなる。
 雄一郎との京都への旅行の計画も立てていた。この旅行へも行けなくなってしまう。
 大学生のすみれにとって、簡単に決断できることではなかった。できればたくさん遊んで残りの大学生活を満喫したかった。でも、すみれは直ぐに決断した。全ての予定をキャンセルした。バーのアルバイトも辞めた。

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