女子大生のハンバーガー店経営物語

第八章 宣戦布告

第一節

 ある日、すみれはバーガーサンデーの店頭を掃除していた。ランチタイムの忙しさから解放され、客がいなくなった頃を見計らって店の内外の清掃をしていた。
 そうしているうちに、30代後半と思われる男性がすみれに声をかけてきた。
「こんにちは。初めまして」
 すみれは顔を見上げた。
「あ、はい。こんにちは」
「突然すみません。私はマイスバーガーの田中拓也と申します」
「あ」
 すみれは思わず声を上げてしまった。マイスバーガーという言葉に反応してしまった。
「再来月にマイスバーガーをオープンさせます。近隣の皆様にご挨拶させていただいております。工事期間中はご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします。バーガーサンデーの水谷すみれです。あの、どちらにオープンするんですか」
「あちらです」
 田中はバーガーサンデーの前の更地を指差した。本屋が以前営業していたが、その後閉店し、今は更地となっている。道路を挟んで真向かいに位置している。
「同じハンバーガー店ですね。お互い頑張っていきましょう」
 共闘宣言なのか敵対宣言なのかがわからない、微妙な言い回しだった。
「あ、はい。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
 田中は深々とお辞儀し、去っていった。

「お父さん、大変だよ」
 すみれは店の中にいた茂之のところに駆け寄った。
「どうした、血相を変えて」
「マイスバーガーが目の前にできるんだって」
「え、マイスバーガーが?」
「うん。マイスバーガー」
 茂之は黙ったまま立ちすくんだ。まさかマイスバーガーが目の前にできるとは夢にも思っていなかったようだ。すみれも黙ってしまった。
 売り上げが下がっている中でマイスバーガーが目の前にできてしまったら、バーガーサンデーは潰れてしまうのではないかと二人は思った。
「潰れる」
 茂之は静かに呟いた。

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