女子大生のハンバーガー店経営物語

第七章 八百屋の有旬青果

第二節

「それにしても、本屋の後はどうなるの?」とすみれは店主に聞いた。
「知らないな。何が建つんだろうね。俺も気になる」
「飲食店だったら困るな。うちのお客さま取られちゃうから」
「そうだよね。うちとしては八百屋ができたら困るよ。スーパーでもきついな」
「そうだよね。有旬青果が商店街で唯一の八百屋だもんね」
「そうそう。スーパーはあるけど八百屋はないから。唯一の八百屋っていうのは結構アピールポイントになっているんだよ」
「店頭に、商店街ナンバーワンの八百屋って大きく書いてあるもんね」
「嘘はついていないよ」
「嘘だなんて言ってないよ。それに、これはちゃんとしたアピール戦略になっているし」
「戦略?」
「そう。一番をアピールする戦略」

 すみれは続けて説明した。
「日本一高い山知ってる?」
「おいおいすみれちゃん。俺をバカにしているのかい? 富士山だろ」
「正解。では日本で二番目に高い山は?」
「日本で二番目に高い山? うーん、なんだろう。知らないな」
「答えは北岳なの。南アルプスにある山なんだけど、日本で二番目に高い山が北岳っていうことを多くの人が知らないんだ」
「よかった、知らないのは俺だけじゃないんだね」
「そう。多くの人が知らない。だから二番じゃダメなの。一番じゃなければ誰も記憶してくれないから。だから、商店街でナンバーワンの八百屋というのは多くの人に記憶してもらえるわ」
「なるほどね。一軒しかないっていうオチがあるけどね」
「そうだけどね」と苦笑いしながらすみれは言った。

「それにしてもすみれちゃん、なんか偉い先生みたいだね」
「ボーイフレンドの経営コンサルタントの人に教えてもらったの」
「そうなんだ」
「日本一じゃなくてもいいんだって。範囲を狭くしてでも一番をアピールした方がいいって言ってた。だから商店街で一番でもいいのよ」
「商店街で一番の八百屋っていうのはありってことだ」
「そう。もし現状が一番ではない場合は、一番を目指していることをアピールしてもいいんだって」
「なるほどね。じゃあ店頭に、日本一の八百屋を目指しますって書いた看板を出そうかな」
「それはいいかもしれない」
 二人の経営談義は続いた。

 ふと思い出したようにすみれは次のように言った。
「それにしても本屋の後には何が建つんだろう?」
 すみれにとってはそれが大事なことだった。
「分かったら教えるよ。すみれちゃんも分かったら教えてね」
「うん」

前へTOP次へ