吉野家HDの3〜8月期が最終赤字

 牛丼チェーン「吉野家」などを展開する吉野家ホールディングス(HD)が収益性の悪化で苦しんでいる。同社が発表した2018年3〜8月期連結決算は、最終損益が8億5000万円の赤字(前年同期は12億9000万円の黒字)だった。売上高は2.7%の増収(1003億円)だったにもかかわらず最終赤字となっている。19年3月期は6期ぶりに最終赤字に転落する見通し。吉野家にいったい何が起きているのか。

 グループ売上高の50%程度を占める主力の吉野家は4.7%の増収だった。15%程度を占めるうどん店「はなまるうどん」は8.9%の大幅増収を達成している。主力2業態の売上高に関しては好調に推移しているといえよう。

 主力の吉野家に焦点を当ててみる。近年の吉野家は既存店客数が好調に推移している。牛丼大手3社の中では“最も好調”と言っていいだろう。ゼンショーHDの「すき家」は19年3月期上期の客数が前年同期比0.6%減とマイナスだった。通期ベースでもマイナスが続いている。18年3月期は0.5%減だった。「松屋」の松屋フーズHDは19年3月期上期の客数が2.3%減だった。その直前の18年3月期通期が1.1%減となるなど苦戦が続いている。一方、吉野家は好調だ。19年2月期上期の客数は3.7%増と大きく伸びた。通期ベースでは18年2月期まで2期連続で前の期を上回っている。このように、客数では吉野家の一人勝ちとなっている。好調な客数に引き上げられる形で既存店売上高もプラスが続いている。

 一見すると吉野家は好調のように思える。しかし、営業利益が前年同期比36.8%減(12億円)と大幅に減ってしまった。売上高は好調だったが、利益の面で大きく苦しんだ格好だ。はなまるも同様で、売り上げが好調の一方で営業利益が大きく減っている。営業利益は24.3%減の7億円だった。吉野家HDとしての業績はどうかというと、営業利益が97.4%減(5500万円)と大幅減となっている。不採算店の閉鎖などにより減損損失5億円を計上したこともあり、最終損益が赤字となった。

コスト上昇が経営の大きな負担に

 吉野家HDが営業利益で苦戦を強いられているのは、原材料費や人件費などの高騰により営業に必要なコストが大きく増えているためだ。肉やコメなどの食材価格の高騰により原材料費を含む売上原価が上昇しており、それに伴い売上原価率(売上高に占める売上原価の割合)が高まった。18年3〜8月期の売上原価率は35.8%で前年同期から約1ポイント上昇した。また、人件費などの高騰により販管費の負担が増しており、売上高販管費比率は約1ポイント上昇して64.1%となっている。コストの上昇率が売上高の上昇率を上回ったことにより収益性が悪化した格好だ。

 吉野家は苦しい状況に置かれている。現在、国内で約1200店を展開しているが、長らく店舗数は増えていない。もっとも、店舗数が伸び悩んでいるのはすき家と松屋も同じで3者とも横ばいが続いており、国内における牛丼店の飽和感を指摘する声が少なくない。そうなると、業績を伸ばすには既存店の収益性を高める施策が欠かせない。しかし、原材料費や人件費の高騰が重くのしかかる。そういった中で収益性を高めなければならないわけだが、そのための一つの施策として“値上げ”が考えられる。

 すき家と松屋はコスト増に対し値上げで対応した。すき家は昨年11月に一部商品の値上げを実施している。牛丼の並盛りは350円(税込み、以下同)に据え置いたが、中盛りと大盛りは10円値上げし、特盛りとメガ盛りは50円値上げした。松屋は今年4月に値上げに踏み切っている。牛めしの並盛りを30円高い320円に引き上げた。並盛り以外の牛めしは40〜50円値上げしている。

 すき家は値上げした後に客単価が上昇し、売上高が高まっている。主力の並盛りを据え置いたこともあり客離れが限定的だったようだ。すき家の値上げはある程度成功したといえよう。一方、松屋の値上げは微妙なところだ。値上げした4月から9月までの客数が前年同期比で2.3%減っているためだ。一方で値上げ後に客単価が大きく上昇しており、売上高は高まっている。ただ、客数は人気のバロメーターでもあり、それが減っているため、松屋の値上げの成否はなんとも言えないところがある。

吉野家は牛丼を値上げできない?!

 吉野家も値上げでコスト増に対応したいところだが、それが難しい状況にある。吉野家の主力商品である牛丼の価格が競合と比べてすでに高いためだ。例えば吉野家の牛丼並盛りは380円だが、並盛りの価格で比較した場合、すき家(350円)と松屋(320円)よりもだいぶ高い。並盛り以外のサイズも吉野家は高めだ。こうした状況で吉野家が牛丼の値上げを実施したら、深刻な客離れが起きるだろう。「吉野家の牛丼はもはや庶民の食べ物ではない」というレッテルを貼られ、競合に顧客が流出してしまう可能性が高い。そのため、牛丼以外のメニューで値上げすることはあり得るかもしれないが、牛丼を値上げすることは現状ないのではないか。

 吉野家は過去に値上げで痛い目を見ている。14年12月に、原材料費の高騰などを理由に、牛丼並盛りを300円から380円に引き上げ、他のメニューでもいくつか値上げしたのだが、それにより客数が15%ほど落ち込み、長らく客離れで苦しむことになった。このトラウマがまだ根強く残っていることだろう。

 値上げによる客離れで苦しんでいる外食店が他にあることも大きく影響していそうだ。居酒屋チェーンの鳥貴族は昨年10月に原材料費や人件費の高騰などを理由に1品280円均一から298円に引き上げたところ深刻な客離れが起きた。既存店客数は昨年12月から今年9月まで10カ月連続で前年同月を下回っている。直近の9月が15.3%減となるなど大幅減が続いており、客離れはやみそうにない。吉野家もこのことは当然に知っているだろう。

 こうした状況のため吉野家は値上げでコスト増に対応することが難しい。そのため、メニューの強化や販促により収益性を高めたいところだが、それもなかなか難しいところがある。例えば今秋に、はなまると、すかいらーくのガストも含めて値引きが受けられる「3社合同定期券」を発売するという話題性のある施策を行ってはいるものの、値引きによる施策は収益性を悪化させる要因となるため、収益性を悪化させないためには相当程度の客数増を実現しなければならないという高いハードルがある。そのため、今の吉野家の体力ではこういった値引きによる施策を持続的に行うことは難しいだろう。また、メニューを強化するにしても、当然ながらヒットメニューを生み出すことは簡単なことではない。なかなか難しい状況にあるといえるのではないか。

 吉野家は難しいかじ取りを迫られている。どのような対策を講じていくのか。今後の動向に注目が集まる。